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ブラキシズム(歯ぎしり)による神経トラブル症例
ブラキシズム(歯ぎしり)によって歯の神経が炎症を起こした症例を紹介します。
寝ている間の歯ぎしり(睡眠時ブラキシズム)は自覚していない方が多く、しっかり説明しても理解が得られない場合もありましたので今回ブログを載せることにしました。
症例①(60歳代男性)———————————

この方は当院に初めて来院された段階で右下の一番奥の歯が失活(慢性根尖性歯周炎)していました。

歯ぎしりで歯がかなり削れて(咬耗)しています。また、根っこが腐っていて歯茎から膿が出て(瘻孔)います。

4回の根管治療を行い根管充填を施しました。

根っこの周りの黒い影が膿胞(根尖病巣)です。今回はかなり大きかったので4か月間経過観察しました。

4か月後、レントゲンで骨の再生を確認した後に被せ物で治療終了しました。上顎の治療が終了した段階で寝るときに入れてもらうマウスピース(ナイトガード)を作成して使用していただきました。

数ヶ月でナイトガードがかなり削れており、自覚はなかったけれども睡眠時ブラキシズムがある事を理解していただけました。ナイトガードは3割負担で3000円弱で作れます。
先日、定期検診で来院されましたが、骨も再生しており順調に経過しております。

症例2(50代男性)———————————
この方は、残念ながらご理解を得られずに失活してしまいました。

初診時のレントゲン写真です。特に痛いところも無く、定期検診で来院されました。開口障害やレントゲンでの咬耗から、顎関節にも負担がかかっている旨を説明してバイトプレート(顎関節症を改善するマウスピース)を勧めました。しかし、自覚が無い為了承を得られず終了しました。その後、定期検診で何度か来院されましたが2年後に症状が出始めました。

左下の奥から2番目の歯が冷たいものや熱いものでもたまにしみると来院されました。開口障害もあり、ブラキシズムが原因と説明してバイトプレートを強く勧めましたがやはりご理解いただけず、知覚過敏処置を施しました。
ここで歯の神経について少し説明いたします。
健康歯髄(痛くない状態)→歯髄充血(冷たいものや熱いものや噛んだら痛い)→歯髄炎(自発痛)
この段階では歯髄充血と診断しました。歯髄充血の段階では、原因を取り除けば回復する可能性があります。根管治療という治療は保存不可能と判断した神経を取ってしまう治療なので、最終手段です。残せる可能性があれば残したいのが神経です。この時にバイトプレートを入れていただけたら神経を残せた可能性があるので悔やまれます。
更に5か月後、「昨日、同じ歯が痛くて噛めなかった」と急来院されました。

電気歯髄診(歯に電流を流して神経が生きているか診断する)の結果、すでに失活していると診断し、根管治療に移行しました。
歯髄炎(神経が悲鳴をあげている)→歯髄壊死(死んで腐っている)→根尖性歯周炎(膿胞)と悪化しますがレントゲンではまだ膿胞までは確認できません。

この段階で歯髄壊死と診断しました。虫歯ではないので最小限の削除量で死んで腐ってしまった歯髄を取り除きました。腐敗臭も強く5回目に根管充填並びにコンポジットレジン修復を施しました。

ブラキシズムの自覚は無いがやっていると何とかご理解いただいて、現在はバイトプレートを就寝時入れていただいております。開口障害も良くなってきました。更に肩こりや背中が張って辛かったのも楽になったと喜ばれていました。バイトプレートは3割負担で5000円弱で作れます。
症例3(50代女性)———————————
2016年5月に左下の奥歯の詰め物が欠けたと来院されました。
既にクラック(微細なヒビ)が確認されましたが症状もないので何とか神経を残そうと詰め物で対応しました。


その後、良好に経過していましたが8年後の令和6年5月11日に以前治療した歯がしみると来院されました。しみるということはまだ神経は生きているという事です。睡眠時ブラキシズムによる歯髄充血と診断し知覚過敏処置を施しました。
7月1日に再来院され、更に痛い時があったけれど現在は落ち着いているということでしたがレントゲン撮影を行いました。


この段階で根尖に膿胞が確認されました。5月に来院された(歯髄充血)後に歯髄炎になり、その後根尖性歯周炎に移行したと診断しました。しみるのも落ち着いて痛くない状態なのは逆に神経が死んでしまって無症状になった旨を説明しました。
その後、根管治療を行い4回目に根管充填しました。クラック(ヒビ)も有ったため被せ物にして治療を終えました。

先日、来院された際に再びレントゲン撮影を行いました。


完全に骨も回復していて順調に経過しております。もちろんナイトガードは欠かさず使用していただいています。
以上、3症例紹介させていただきましたが根管治療は100%の治療ではありません。残せる可能性があるなら何とか残してあげたい、その気持ちで根管治療に踏み込むタイミングが遅れることもあるかもしれません。一般的に成功率は初回治療で90%前後、再治療で70~80%とされています。また、体力が落ちたり、免疫力が下がったときに再発する可能性があります。また経験上、激しめなスポーツをされている方も食いしばっているせいかトラブルは起きやすいです。スポーツ用のマウスピースをお薦めします。
また、無症状だからと放置していると顎骨炎や蜂窩織炎になり大学病院で手術になる場合もありますので定期的にレントゲン等で経過観察が必要です。
以上です。このブログが皆様のお口の健康の一助になれば幸いです。